研究の概要
前略
脳の一番外側にある大脳皮質に関しては、医学界でも様々な研究が進んできました。またこの部分が人類の最も優れた、他の生物への優位性とも言われてきました。
確かに、ネアンデルタール人を滅ぼし、その後の繁栄の種となったクロマニオン人は、より大きな前頭葉を有していました。そのせいか、近年に到るまでネアンデルタール人は言語も持たない原人と定義されてきました。
しかし最近になり、一人の考古学者が、彼らの洞窟から、ある墓を発見したのです。その墓の主は、腕を折っており、仲間と共に狩りをする事が不可能な者であった事が、現代の技術により明らかになりました。しかも、彼の墓には種類の異なる数多くの花が供えられていた事が、花粉から検証されています。
つまり、ネアンデルタールは、何らかの方法でコミュニケーションを取り、怪我した者を労わる福祉制度までを持ち、集団生活を営んでいた訳です。彼らのコミュニケーション手段が言語であったかどうかは、定かではありません。社会を形成する意思疎通が出来ていた事は確かなのです。
クロマニオン人の特性は飛び道具(投げやり)を使っていた事です。前頭葉の発達が生み出した、兵器開発能力は現代人にそのまま受け継がれています。石の片側だけを鋭く研ぎ出し投げやりを作る、現代では機械が得意な分野である、単純作業の積み上げによる高度技術の開発は、この時代に始まっていたのです。
アナログ作業の積み上げは、一つのプロセスが故障すれば破綻をきたします。一方で、デジタル作業(同時に複数作業を並行処理できる)は、故障時には代替機能が働きます。実は人間の脳内でも、この処理工程が存在しています。誰しも、呼吸をしながら心臓を動かし、寒ければ鳥肌が立ち、暑ければ汗をかきます。また物音がすれば、その方向を目が捕捉し、そこに存在するであろう対象物に焦点を合わせ、対象が動体であれば、動きに応じて体の重心を移動させ、追尾して行くのです。これらの作業は、何らの意識もなく、一瞬にして完結します。この無意識のデジタル作業こそが、潜在意識のメカニズムです。
近年に到り、これらのデジタル作業が、大脳皮質部分ではなく、脳幹、小脳、またその周辺部分により、司られている事が量子力学的測量法で証明されつつあります。しかし、これらのファンクションを総合的にモデル化した物は、未だ知られざる神秘のままです。これは、ネアンデルタール人に対して為した誤解と同様に、まず言語ありきと言う人間の思い上がりにより生まれています。
もしあなたが初恋の人を思い浮かべようとしたら、身長165センチで、髪の色は、こげ茶に近い黒、口元右0.7センチ上方に半径0.5ミリのほくろがあり・・・とは考えずに、対象の顔、またはシルエット、気配、匂いなどのビジュアル、音声、臭覚データが浮かんでくるはずです。つまり潜在意識部分に収納されたデータは、脳内で言語データ(テキスト・データ)として伝達されていないのです。過去にみなさんがご存じの人工知能は、翻訳機やチェスゲームの延長線上にある物が殆んどでテキストデータにより構成されてきました。
これを、人間の視覚を構成する基となる、可視光線という量子エネルギーにより構成する処から、私の人工知能の研究開発は始まります。
研究内容
脳の部位における情報処理
大脳が一度に処理できる情報の数 VS 脳幹と周辺部が処理できる情報の数

古代脳、原子脳等と呼ばれ、機能が低いとイメージを植え付けられいた、脳幹と周辺部。
現実には、一度に非常に多くの作業を瞬時にこなしている命令中枢部分である。
人類と他生物の前頭葉の大きさの差が、解剖学的に分かり、人類の英知、感情の源は、その形態的違いの象徴である大脳にあるという安易な結論が招いた錯覚に過ぎない。
脳から見た情報入力と量子エネルギー

クォークから宇宙の大規模構造まで。一般に、私達の意識体験は、こうしたスケールの階層の中で、神経細胞から脳までに及ぶ、ある特定の中間的スケールの問題として論じられる(図中 青い横線)。これより細かいスケールの物理状態が、意識体験に直接関わってこないように見える現象はグレイン問題と呼ばれる。



脳の情報処理の仕組みと量子エネルギーの関係
CIV-Artificial Intelligence 完成後のプログラム

「わざ」の記憶は小脳で
今水 寛・宮内 哲
科学技術振興事業団川人学習動態脳プロジェクト・郵政省通信総合研究所関西先端研究センター知覚機構研究室
概要
私たちはたくさんの道具を使い、便利な生活を送っています。道具の中には、箸やはさみのように、始めは使いこなすのに苦労するけれど、繰り返し練習することで、自分のからだの一部のように自在に使えるようになるものがあります。このような、道具を使う「わざ」を修得するとき、小脳と呼ばれる脳の一部が重要な役割を果たしているのではないかと言われてきました。私たちは、このような道具の使い方を練習しているときの、人間の脳活動を、ファンクシ ョナルMRIと呼ばれる装置で計測しました。
その結果、人間の小脳に道具を使う「わざ」が、徐々に獲得されていく様子が初めて明らかになりました。
小脳について
小脳は、後頭部の下の方にあります(図1)。小脳はからだを速く滑らかに動かすときや、運動技能の修得に重要な役割を果たすと考えられてきました。
小脳における学習の仕組みをめぐって、相反する2つの学説がありました。学習とともに、小脳に記憶が蓄積されるという説と、小脳は過ち(誤差)の修正に重要なのであって、記憶は脳の他の場所に蓄えられるという説です。
この2つの説を検証するために、私たちは、新しい道具の使い方を学習しているときの、人間の小脳活動を計測し、どのような変化が起きているかを調べました。

左:MRIで撮像した人間の頭部。
赤い点線で囲った部分のあたりに「小脳」がある。
右:頭皮・頭蓋骨などを取り除き、むき出しにした脳。
赤い点線で囲った部分が「小脳」。
実験の方法
実験で使った「新しい道具」は、特殊なコンピュータマウスで、マウスを動かす方向と、画面上のポインタが動く方向に一定のずれが生じるようにしてあります。仕事やゲームで、マウスを使うことが多くなりましたが、例えば、マウスを上下逆さまにして、操作してみてください。
初めは戸惑いますが、繰り返し練習することで、自由に動かすことができるようになります。コンピュータ画面に、動き回るターゲットを表示し、特殊なマウスを操作して、ターゲットを追跡するというゲームを、被験者に数時間にわたって練習してもらいました。
練習中の被験者の小脳活動を、関西先端研究センターのファンクショナルMRI(機能的磁気共鳴画像)装置で計測しました。
脳の細胞が活動すると、微少な血流の変化が起きます。この装置は、その変化がどの場所で起きているかを、ミリメートル単位の正確さで計測することができます。
実験の結果
図2は、人間の小脳の断面図です。赤い枠で囲った部分では、練習の始めは、盛んに脳活動が起きていましたが、練習が進むにつれて減少しました(図3の赤い曲線)。一方、青い色を付けた部分では、練習を充分にしても、あまり活動は下がりませんでした(図3の青い曲線)。図3の緑の曲線は、青い曲線と赤い曲線の差を示しています。練習の始めは、差がありませんが、練習するにつれて、次第に差が開いて行く様子がわかります。
練習の際のマウスの軌跡データと、ファンクショナルMRIから得られた小脳の活動データを詳細に比較した結果、図2の赤い枠で囲った部分の活動は、マウスの使い方に不慣れなために生じた、過ち(誤差)に正確に比例していました。
つまり、図3の赤い曲線で示した活動は、誤差の情報を伝える役目を果たしていると考えられます。 一方、緑の曲線は、誤差が少なくなるにつれて上昇していて、この活動は、練習によって修得された、「わざ」の記憶を反映していると考えられます。
ちなみに、別の実験で、この活動が単純な手の動きによるものではないことは確認しています。

人間の頭部を、小脳を含むようなスライスで撮像したときのMR画像(右)赤い枠で囲った部分では、練習とともに、脳活動が減少した。
青い色をつけた部分では、練習しても、脳活動はあまり減少しなかった。

練習とともに、小脳の活動がどのように変化したかを示す図。赤い曲線は、図2の赤い枠で囲った部分の活動。青い曲線は、図2の青い色を付けた部分の活動。緑の曲線は、青い曲線と赤い曲線の差(青マイナス赤)を示す。